大阪駅、暁の広場にあるLEDビジョン「大阪駅セントラルサウンドビジョン」にて、「ヒョウ・アカツキ」の裸眼3D映像が2022年9月28日から放映を開始しました。この映像は、株式会社 JR 西日本コミュニケーションズ様と共同で制作に携わらせていただきました。
多くの人が行き交う大阪駅、暁の広場。史上最大サイズでありながら人々があまり目を向けていなかったLEDビジョンに、ヒョウ・アカツキは突如現れました。
この記事では、アカツキにどのようなアイデアや思いが込められ、どのような葛藤を経てヒョウの姿になったのかを、ディレクターの土居啓介さんと、デザイナーのロイさんに聞いてきました。
アカツキのヒョウが誕生したきっかけ
――はじめに、このプロジェクトが誕生した経緯についてお聞きしたいです。
土居:大阪駅の暁の広場に設置の「大阪駅セントラルサウンドビジョン」は、音声も流れる大型のLEDビジョンですが、コロナ禍の時期に完成したこともあり、まだまだクライアント様にもご通行のお客様にも認知されていないという課題がありました。
近年、国内外で話題になっている3D映像。その中には、その地のマスコットとして多くの人を魅了してきたものもあります。そんな、広告塔になるような動画を作ってほしいというご依頼があったことがはじまりでした。
映像を映すサイネージは、平面であること、両サイドにエスカレーターがあるという特徴があります。この場所を活かした映像にするモチーフ案を色々出していく中で、クライアントに一番気にいっていただけたのはヒョウの3D映像でした。大阪らしさに加えて、動物を取り入れることで対比による話題性を狙いました。
平面のサイネージでどのように立体感を出すのか
――早速ですが、「アカツキ」の制作のポイントについてお聞かせください。
土居:本プロジェクトは、平面のサイネージで立体感をどのように出すかが大きなポイントになっています。
まず、3D映像には一番立体的に見える場所である「ビューポイント」というものがあります。
サイネージの数値、サイネージまでの距離や高さ、降りたところからビューポイントまでの距離を計測し、3Dの再現をして見え方の検証をあらゆる場所から行い、一か所に決定します。
今回は、広場中央のある地点から一番立体的に見えるように、また日本人の平均身長の高さになるようにビューポイントを決めました。暁の広場に来られた際は、この一番立体的に見えるポイントを探してみてほしいですね。
――一番立体的に見えるポイントがあるんですね!色々な場所から見てみたくなります。この3Dサイネージは、一般的に使われるものと違うとお聞きしました。
土居:一般的な3Dサイネージは角があったり手前に湾曲しているものが多いですが、今回映像を流したサイネージは横に長い平面の形をしていました。フラットなサイネージを使用する時は、視覚の見え方を活かして立体的に見えるよう演出を考えなければなりませんでした。
ひとつは、光と影の効果の活用についてです。ヒョウ・アカツキは、左の後ろから右手前にゆっくりと全身を見せるように動いてきます。よりリアルな立体感を表現するために、暗いところから明るいところに出るときの影の動きや陰影のコントラストを強めるなど工夫しました。サイネージでテストする前の段階では、今より影が薄くついている状態でしたが、より立体感を感じることができるようコントラストをより強めに修正しています。
ヒョウ・アカツキの動きは明暗を活かした動きになるよう意識しました。はじめ左奥から右手前にゆっくり歩いてくる動きでは、次第にヒョウの体に光に当たる部分が多くなるように、その後一度奥に下がった時は体全体に影が落ちるようにするなど、奥行きが感じられるような工夫しました。
ロイ:アカツキの動きの絵コンテは私が担当したのですが、平面で書いたイメージ画を実際3Dでテストしてみると、イメージ通りに表現できていなかったりと難しく感じました。最初のテストでは、数秒ごとに静止画を切り替える形でチェックをしていたのですが、その段階ではクライアントのイメージと違っていたり。自分の描いた画像が実際に3D映像になったのを見た時は嬉しかったです。
――影の強さを活かしたヒョウの動きをつくっていくことで、迫力ある立体感を演出しているんですね。ところで、ヒョウが出入りしている四角いものは何なのですか?
土居:アカツキがいる後ろの空間は、抜けて向こう側が見えるという大きな特徴があります。この背景は奥行きを感じられるポイントが詰まっていまして、手前にある四角い疑似的な部屋もその一つです。
この四角い部屋を作ったことで、手前のヒョウと奥の建物の間に空間を表現することができるので、奥行きの深さを強調させることができます。この疑似的な部屋の表現は、海外のサイネージなどでも活用されている手法で、今回のケースにも活かせると思い採用しました。
ロイ:はじめは部屋の中に物を置いたり、蔦で装飾する案もありました。しかしサイネージに映したところ、必要以上に物があることで立体感が薄くなるように感じたため、シンプルな部屋の枠のみになりました。また、動きをダイナミックさを出すため、ヒョウが部屋の白い枠からサイネージ本体の黒枠上に飛び乗っているかのように見せる案も出ていました。この案もサイネージに映してみたところ、実際のサイネージの黒枠と映像の黒枠の色差が自然に見えなかったために、使用することは出来ませんでした。
土居:映像の最後で、手前に飛び出した板の上にヒョウが歩いて出てくるシーンがあります。最初はあの演出は無く、うろうろ部屋の中を歩いてるのみでしたが、インパクトが弱いと思っていました。そこで、あるARの作品が最後に真ん中から手前に飛び出すのを思い出したんです。その案を活用し、鋭角な板が手前に出てくるようにしたのは良かったと思います。
背景の一番背面に位置するのは、実際その位置に建つビルに模した建物の写真画像です。この写真にも少し工夫を施しました。そのままの写真を貼ると、サイネージ上で平面なものがぺったりついてるように見えてしまうので、建物の手前の湾曲した部分を強調させ、そこから後ろにカーブしてる部分をぼかす加工をしました。このぼかしは一見分からないほどの微細な加工ではありますが、映像全体でみると無意識に自然な立体感を感じることができます。
また、ビルの見え方にも拘りました。サイネージの位置とビューポイントを加味すると一見、見上げた視点からビューポイントを通した延長線上にビルが位置する方が自然な見え方に思われますが、サイネージ映像にしてみるとそうはなりませんでした。ビルが自然に見える高さを検証するため、大阪駅の各階からビルがどのように見えるかを一通り撮影しました。結果、ビルと同じ高さから見たビルの写真が一番自然に見えたため、その写真を採用しました。
人々が立ち止まるきっかけをつくる
――アカツキが迫力ある映像であるとはいえ、広場を忙しく通行する人たちが立ち止まるようにするには難しかったのでは…?
土居:がやがやとした雑音の中、激しく行き交う人たちの注目を集めるためには、いつもはないなにかが体験できそう、と感じさせる必要がありました。
暁の広場のサイネージは、普段は広告が主に流れていて、横並びの2画面それぞれに映像を流しています。そこでヒョウ・アカツキは、いつもとは違う映像であると一目でわかるように、2画面をつなげて大画面の映像にしました。
また、アカツキの映像の冒頭には、3秒のカウントダウンが入ります。カウントダウンはイベント開始や年始のタイミング、重要な発表の時など、人が無意識に「何かが今から起こる」と刷り込まれているサインのひとつです。画面という視覚からも、「ピッピッ」という音による聴覚からも注意を惹きつける効果があります。
映像に使用したBGMも、オーソドックスなものではなく耳に残るようなものを採用しました。印象的な音を入れることで、カウントダウンを見聞きした人が何だろう?と、引き続き見ていたくなるような感覚にさせてくれます。
ロイ:アカツキの動画の前後には、CMなどの情報量が多い映像が流れます。そのため、このCMの合間にあえてシンプルでゆったりした動きのヒョウの映像が流れることで、いつもと違う際立った雰囲気を演出することができました。本来は、ヒョウの滑らかな動きを表現するため、緩急を意識した映像にしたのですが、目を引く効果としても発揮しました。
――たしかに、カウントダウンの後にいつもは聞かない音楽が流れだしたら、ふと目をあげたくなります。何の広告かと思えば、ヒョウがゆっくり出てきたらびっくりしてしまうかもしれません。
土居:この作品は30秒の映像ですが、はじめは15秒の映像を予定していました。しかし、前の広告映像が切り替わり、人々の「意識を集める」作品としては短いと考え、30秒の映像になりました。
というのも、テレビや映画の15秒と、このサイネージの15秒では全く異なる視聴体験になるからです。テレビや映画であれば観客の意識が既に画面に向いているので、短い15秒のCMでもすっと内容が入ってきます。ただ、雑踏のなかでサイネージに映る映像を認知し、内容を理解し始めるのはじめの5秒を過ぎたあたりです。15秒の動画では、理解し始めた頃には既に終わっていて、観客の意識にヒョウ・アカツキを残すことができないからです。
Youtube、テレビ、映画など、映像には様々なジャンルがあります。しかし、いつ、どの時間に、どんな気分になるために見るものなのか、それぞれの体験設計は全く異なります。
このサイネージの映像はそれらとはまた別で、一つの体験アトラクションのようなものです。アトラクションとはいえ、ひとえに動きを激しくすればいいわけではありません。ヒョウをモチーフにするとなれば、飛びかかってきたり、画面外に消えるなど色々動きの幅はありますが、その動きに意図がなければ組み込んでも経験的に結局しっくりこなくなってしまうのです。
トンガルマンは、「アカツキ」を映像というより体験コンテンツとしてとらえ、制作をしてきました。「アカツキ」はのんびりと、そこにずっと住んでいるように大阪駅での時間を過ごしています。エスカレーターにいる人にもゆっくり近づき、挨拶をしてくれます。ただうろうろしているだけかと思いきや、突然画面の真ん中から鋭角な板が飛び出しヒョウが大きく前へ歩き出てきます。この意外性は、体験コンテンツでは重要な演出です。
その場所や、そのプロジェクトの目的を理解し、対象となるユーザーのことを考えた体験を設計しながらコンテンツを創り上げていくというプロセスは、デジタルイベントなど様々なジャンルのクリエティブを手掛け、アイディエーションやUXデザインを得意とするトンガルマンならではの形だと思っています。
――体験の設計が、このような形で組み込まれていたのですね。動画を動画としてだけでなく、アトラクションや体験コンテンツとして考えるのは、トンガルマンのクリエイターっぽいなと思いました。
前例を超えるクリエイティブを目指す
――「アカツキ」は、今後もこの広場にいてくれるのでしょうか?
ロイ:アカツキは現在、通常バージョンと夜バージョン、お昼寝バージョンがありますが、今後も色んなバージョンを模索しています。暁の広場に住んでいるシンボル、マスコットのような存在になれば嬉しいです。
――それは楽しみです!最後に、ひとことお願いします。
土居:トンガルマンは今後も、海外の3D技術などを進んで取り入れた、意外性のある映像を作りたいと思っています。
単なる映像制作ではなく、現場や現地での体験の設計や、それらと映像をからめた制作は、また一味違った良さを見つけることができると考えています。
「アカツキ」制作時も、平面のサイネージでの放映というチャレンジングな環境でしたが、そこを楽しみ挑戦し続けるのがトンガルマンという会社なのだと感じています。
――ありがとうございます!私も、今後どのような映像が出来るのかとても楽しみです。
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